前夫の自死に向き合う 14

【はじめてのメンタルクリニック

 

ご両親がお兄さんの時の経験から

葬儀後もしばらくの間は弔問客が来るだろうと仰っていたので

私は朝起きると車で15分くらいの実家へ向かい

弔問客の対応をして

1日が終わるとLサイズの額に入った遺影を持って

静まり返ったアパートに戻る

という生活を初盆が終わるまで毎日繰り返していました。

 

はじめてひとりでアパートに帰った日

まだ現実を受け止められなかった私は

怖くてアパートの中に入れずにいました。

ちょうどその時、看護学校の友達が電話をくれました。

「今アパートに着いたんだけど、

 玄関開けるのが怖い。

 話しながらだったら中に入れる気がするから

 このまま切らないで話していてくれる?」

とお願いして

携帯電話から聴こえる彼女の声を頼りに玄関を開けました。

彼女はこのことを覚えているかわからないけど

私は彼女がいなかったらひとりではアパートに入れませんでした。

 

弔問客には、私が妻であることを伝える度に

妻ですと言っても夫は生きてないんだ

なんて短い婚姻生活だったんだろうと

辛さが込み上げ

その辛さに追い討ちをかけるように

「あなたが奥さんなのね、

   亡くなる前は何か変わった様子はあったの?」

「普段の血圧はいくつだったの?」

 

死因が脳出血だと思っている人からは、

血圧や普段の様子を質問されました。

 

夫の血圧を把握しているのが当然の前提で聞かれるのですが

私は自分の血圧でさえ、だいたいしかわかりません。

「そんなに高くなかったと思います…」

と答えると

「うちのパパ血圧高いから心配で。

   こんな突然亡くなるなんて怖くなっちゃって」 

 

突然の訃報に不安が募ってしまうのだろうけど

あなたのご主人は今、生きてる。

ご主人が生きているというだけで

羨ましいと思いました。

 

自死だと知っている人からは

遺書はあったのか(アパートにはありませんでした)

最近変わった様子はなかったか

思い当たることはないのか

悩み事はあったのか

私との関係はどうだったのか…

 

周囲は、死を選んだ理由を私に尋ねましたが

わかりません。

私だって知りたいです。

質問される度、

責められているようにしか受け取ることができず

心臓のあたりを押し潰されるように辛くなりました。

 

「見守ってくれてるよ」

よく言われたこの言葉も、私は嫌でした。

どこにも見えないし気配も感じない

見守ってくれるくらいなら

死なないでほしかった。

 

どんな言葉も辛くなるやりとりを

弔問客の数だけ

乗り越えなければなりませんでした。

 

師長からメンタルクリニックを受診するようすすめられました。

受診しても楽になれる気はしなかったので

行かないでいると

「あなたは今、普通の状態じゃないのよ」と

受診したかを確認する電話をくれるようになり

師長さんを安心させてあげたくて

近くのメンタルクリニックに足を運びました。

 

心の診療科にかかるのは初めてでした。

院内は静かな雰囲気で

待合室には入れ墨の入った男性が座っていました。

入れ墨が入っていると無敵に見えるけど

悩みごともあるんだな…と思いました。

 

問診票の、今日はどうされましたか?の欄に

「先月夫を亡くしました」

と書きました。

診察室に入ると医師は緊張した様子で

私にかける言葉が出てこず困っているように見えてしまいました。

稀なケースだもんね、なんて言ったらいいか戸惑っちゃうよね、

なんか余計辛くなっちゃったな、

行かなくても良かったなと思いました。

 

処方された薬を飲んでみましたが

私は薬を飲んだのか?と思うほど

何も変わりませんでした。

今、同じ薬を飲んだら眠くなったりぼーっとしたりするのかもしれませんが。

 

占いに行ったこともありました。

私は薬が飲みたいのではなくて

どうしてこんなことが起こったのかを

知りたかったのです。

 

幻想的な部屋で

あでやかな装飾品をつけた占い師が

自身がどんなことを占えるか私に説明して

私が話す番になったようだったので

「夫を亡くして…」

と言ったら

 

「えーーー?!

  いつ?何で?病気?

  あなたまだ若いじゃない?お子さんは?」

 

普通のおばさんにしか見えなくなり

 

「すみません、やっぱり帰ります」

と言って幻想部屋を後にしました。

 

私の話をちゃんと聴いてくれる人っているのだろうか…

この頃から、今までとは違った視点で人を見るようになっていきました。

 

仲人となった友人も私を心配して

良い先生がいるからと、私を迎えに来て

私にとって2ヶ所目となる心の診療科を案内してくれました。

問診票を書くとき、隣から

「カウンセリングを受けたいって書きな」と言われ

そのように書きました。

 

"診察室にセラピー犬がいます。

  苦手な方はお申し出ください"

との表示があり

私は動物が大の苦手なので

問診票に「動物は苦手です」と追記しました。

 

この2ヶ所目の先生は

診察のはじめに必ず私と一緒に深呼吸をしてくれました。

薬を処方してもらうより

先生と一緒に深呼吸できることが心の支えとなり

私はそこから先生のところへ通うようになりました。

私の診察になると 

毎回セラピー犬を外に出してくれました。

たまに中へ入ってきてしまい

私の足元にシュルシュルっと来ることがあって

ギャアァァ!となりました。

 

もう何年も行っていませんが

私がここまで立ち直った姿を見たら先生も喜ばれるだろうと思います。